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大江能楽堂にて、京都にゆかりのあるアニメーション5作品を上映

2019年10月19日(土) レポート

10月19日、今年で建立111年を迎える大江能楽堂で行われたのは、「京の映画」。この企画は、観光で訪れただけでは見ることのできない「京都」を、“人”や“場所”など様々な視点から紹介する「京都」にゆかりのある作品を紹介するものです。今年は、アニメーション作品を集め、人形美術家・人形アニメーション作家の川本喜八郎監督、映像作家の髙橋克雄監督、日本のアニメーションの父と呼ばれる政岡憲三監督、新進気鋭の谷耀介監督による作品など、京都にゆかりのある作品5作品が上映されました。

上映前にMCのヒューマン中村が、ゲストを呼び込みます。映像作家・髙橋克雄の長女で髙橋克雄著作権事務所代表、アニメーション協会会員の髙橋佳里子さん、アニメーション協会会長の古川タクさん、今回の企画提案者のおもちゃ映画ミュージアム太田文代さんです。

「日本のアニメーションの基礎を築いた恩人たちの作品から若手作家の作品まで用意したので楽しんでください」と太田さん。古川さんは、日本のアニメの魅力について、「アメリカは子供向けの作品が多いが、日本のアニメは多様性があり、作家が好き勝手につくっているところが魅力。日本の国民性とあっているのかもしれません」と語ります。「誰もが一度は、子どもの頃、パラパラ漫画を描いたりしましたよね!」とヒューマン中村。髙橋さんは、「一寸法師やKAGUYA HIMEには、京都御所など京都の街並みがたくさん出てきます。翁が能を踊る場面は必見です」と見どころを語ってくれました。

太田さんから最初に上映される作品、「花折り」についての説明がありました。「花折り」は、川本喜八郎の自主製作による人形アニメーション処女作。京都壬生寺で行われる壬生狂言の「花折り」がモチーフとされています。分かりやすく仏教の教えを説くため、他の狂言とは異なり身振り手振りの無言劇(パントマイム)で演じられます。1963年、海外渡航がままならない時代、川本はチェコのイジー・トルンカを訪ね、トルンカから「日本には文楽や能のような様式的な演劇の表現があるではないか」というアドバイスを受け、日本の伝統美と川本の人形が出会いを果たした記念碑的作品となっているとのこと。上映後、お客さんと一緒に鑑賞した登壇者によって、コミカルな人形の表情についてなど、川本喜八郎独特の表現について、それぞれの感想が語られました。

次に上映されるのは、髙橋克雄監督・脚本・演出・撮影・人形による「KAGUYA HIME(かぐやひめ) 日本語字幕デジタル・リマスター版」です。上映前にこの作品について紹介があり、「一寸法師、KAGUYA HIME、野ばらが父の3大作品だと思っているのですが、KAGUYA HIMEが一番レベルが高い作品です」と髙橋さん。この作品は日本の美と雅の心を海外に紹介する目的で、京都を舞台として製作されました。日本最古のロマン「かぐやひめ」の民話を独自の人形アニメーションの技法で格調高く演出、愛する者との永遠の別離を表現されています。「姫の顔が私にそっくりだなと思っていたのですが、父は、当時母(私の祖母)を亡くした直後だったので、母を意識して人形の顔を彫ったらしいのです。隔世遺伝で私に似ていたのですね(笑)」と貴重なエピソードも。12カ国語版あり、日本語版が無かったのですが、今回特別に英語版に日本語字幕を加え、デジタル・リマスター版としてお披露目されました。京都を舞台にした壮大なセット、人形の動きや表情、特撮と鬼気迫る林光氏の音楽が絶妙にオーバー・ラップするラスト・シーンは圧巻。上映後は、太田さんより、物語の中に登場するキャラクターのモデルになった人物や時代背景などについて解説がありました。髙橋さんからは、客席で一緒に上映を楽しんだ当時の美術スタッフ2名が紹介され、過酷だったロケの裏話や特撮の苦労を語る場面も。貴重な話の数々にお客さんも興味津々の表情を浮かべていました。

3作品目は、同じく髙橋克雄監督・脚本・演出・撮影による1967年の作品「一寸法師」。「一寸法師」の民話を独自の立体人形アニメーションで表現したものです。この作品は、海外に向けて、24カ国語に翻訳され、外務省から配給されました。病院で上映してほしいといわれることが多いそう。「笑いは健康にいいので、元気を出していただくのに良いんです。海外の人もよく笑いますよ」と髙橋さん。

続いて4作品目は、京都出身の谷耀介監督による「くらまの火祭」です。これは2017年制作の作品で、毎年10月22日に行われる京都3大奇祭のひとつ「鞍馬の火祭」を題材に、ドキュメントとファンタジーが交錯しながら、人と神、妖怪たちが一緒になって祭りを作り上げる様子を描いたアニメです。「2年前に谷さんの作品を観て印象に残ったんです。数々の賞を受賞しているこの作品を通して京都の文化を知ってもらいたい」と太田さん。「CGを使っているが、光と影は絵で表現されています。谷監督は画力が素晴らしい」と古川さんからもコメントがあり、さらに谷耀介監督本人からのメッセージも紹介されました。

最後は、日本の動画の父である政岡憲三監督「べんけい対ウシワカ」です。この作品は1939年作品ということで、「僕もまだ生まれていない時代です」と古川さん。太田さんからは「今回は、神戸映画資料館安井館長のご尽力で完全版をご覧いただけて、感動しています」と上映の経緯が明かされます。さらに、制作年不詳の「ギャングの最後」という数秒のアニメーションをサプライズ上映。政岡憲三監督作品かもしれないということで、貴重な50秒の短い映像が上映され、アニメファンにはたまらない時間となりました。

最後に、「今日のような昔の作品を観て、日本のアニメーションの多様性を楽しんでほしい」と古川さん。太田さんは「アニメにおける人形研究のベースは能から構想を得ているといわれています。今日は、大江能楽堂で上映できたことをうれしく思います。この場に相応しい企画でした」と感慨深げに締め、上映会は終了となりました。

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