映画史に残る名俳優のルーツがココに!
2019年10月18日(金) レポート
18日(金)、大江能楽堂にて、牧野省三没後90年企画として『崇禅寺馬場』『逆流』『黒白双紙』『マキノが生んだスターたち』が上映されました。大江能楽堂は毎年「映画のルーツ(原点)」をテーマにサイレント/クラシック映画を上映。今年は「日本映画の父」として知られる映画監督・牧野省三氏の没後90年にあたり、氏の功績を称えるとともに監督作品を展開します。
13:00~の1回目に続いて、MCは清水圭、活動弁士は坂本頼光さん、演奏は鳥飼りょうさんが担当。注目の企画のため、客席には1回目に引き続いて多くのお客さんが観覧に訪れ、オープニングでは坂本さんが「ものすごくデジャブを感じます」と笑いを誘います。また当日のあいにくの天気に絡めて「第2部では、湿り気の多い作品を上映します」と、今回上映する作品を簡単に紹介。阪東妻三郎、嵐寛寿郎、市川右太衛門、片岡千恵蔵など、今でも有名な役者が登場する作品であることを説明し、上映がスタート。
まずは「崇禅寺馬場」から。弟の敵をとりに来た二人の兄弟が返り討ちにあう実話を元にした作品ですが、これを牧野省三が製作総指揮、息子のマキノ正博が監督、南光明が主演をして、最初に弟を切った侍に主眼を置いて作った作品とのこと。ちなみにこれは昭和3年の作品ですが、「実はマキノ・プロダクションにとって過渡期なんです」と坂本さん。実は牧野省三が育てた、片岡千恵蔵や嵐寛寿郎などのスターたちが、前年に政治的なキャスティングで撮影した『忠魂義烈 実録忠臣蔵』に失望し、プロダクションを抜けて独立したことで、新しいスターを作る必要があったそう。
しかし、主演の南光明は「どうしても華がない」と残念がる坂本さん。一方で相手役の女優の演技が素晴らしく、
「男顔負けの大立ち回りで、本人が熱を出して倒れてしまったという逸話もある」と解説。また「この時代になると歌舞伎的な演技ではなく、よりリアルに近い映画演技」もポイントと説明しました。
続いては、阪東妻三郎主演の『逆流』。坂本さんは「阪東妻三郎は『雄呂血』という作品がすごく有名なんですが、これはその原型となった作品です」と解説。また、監督が二川文太郎、脚本が寿々喜多呂九平とこちらも『雄呂血』と同じコンビだと触れられます。
物語は藩の家老などのエライ人間からの理不尽な目に耐えきれず、復讐をする若侍の話。清水が「逆ギレに近い?」とふると「そうなんですよ。こういう作品は主役に感情移入できればいいんですが、この作品は若侍の思い込みが激しすぎる」と坂本さん。さらに「娘役にマキノ輝子さんが出てくるんですが、この方が長門(裕之)さん、
津川(雅彦)さんのお母さんです。この方がここまで大きく出ている作品は他にないので、こちらも楽しんでほしい」と見どころを加えました。
3本目は今までとは違い、コメディ映画の『黒白双紙(こくびゃくぞうし)』。坂本さんは「今までの悲哀漂う作品ではなく、コメディですから安心しています。吉本新喜劇みたいな感じです」と解説。黒白は黒が炭屋、白が洗濯屋を指し、お互いの息子と娘は恋仲だが、黒と白で父親同士は仲が悪い。そんな両家の恋仲と仲違いを面白おかしく描いた作品となっています。
また、今作の監督・曽根純三は元々警官だったいうエピソードも披露。警官が一転して映画監督になったのには「昔は映画館に、活動弁士が不用意な発言をしないよう、警官が監視する臨官席があった」と坂本さん。「ただ、監視を続けているうちに映画が好きになって、警官をやめてしまう人も本当にいたそうなんです」と、当時の事情を語りました。
ラストは総集編、「マキノが生んだスターたち」。オモチャフィルムをつなぎ合わせ、「主にチャンバラシーンばかりですが、それぞれのスターのよい部分が凝縮されている」と坂本さん。マキノ映画を支え、そこから大スターとして日本映画を牽引した、阪東妻三郎、月形龍之介、市川右太衛門、片岡千恵蔵、嵐寛寿郎の映像を、断片的に上映しました。なかには片岡千恵蔵主演、伊丹十三の父親である伊丹万作が監督した花火などの貴重な作品も。どれも現存するフィルムが少ないので、わずかずつですが、上映後には「それでもまとめて見ると面白いです」と坂本さん。さらに「牧野省三さんがすごいと思うのは、コイツはものになるという審美眼がある。例えば尾上松之助でも別にイケメンではないけど、小さい目を開いた時に存在感が引き立つ」また「嵐寛寿郎も最初は嵐長三郎でデビューさせられたんですが、その理由は少し前に松竹から長谷川一夫が林長二郎としてデビューしたから。一本多くして、長二郎に勝て」など、隠れた逸話を披露し、上映会は閉幕しました。
- Facebookでシェア
- Twitterでシェア