セットは美術館の展示物だった林海象監督の意欲作、【特別招待】『BOLT』を上映
2019年10月19日(土) レポート
10月19日(土)、TOHOシネマズ二条での【特別招待】『BOLT』ジャパンプレミア上映に林海象監督、出演者の後藤ひろひとが登壇しました。本作は、4年がかりで制作された3つのストーリーから成る1本。構成内容は、大地震の影響で原子力発電所内のゆるんだ“BOLT”を命がけで締め直しに行く男たちの物語、その中の1人の男のその後、あるクリスマスの夜の男女の行方です。
MCのロバータがゲストのふたりを呼び込むと、後藤は舞台袖から、林監督は客席からスクリーン前へと現れました。まずは林監督から「毎年、このシリーズで映画祭に呼んでもらっているんですけど。3本揃って観ていただいて、とってもうれしいです、ありがとうございました」とご挨拶を兼ねて、観客の皆さんに感謝を伝えます。次に後藤が、「わたしでいいんですか? (主演の)永瀬さん、忙しかったんですか?」と申し訳なさそうにしていると、林監督が「忙しい」と頷き、ひと笑いが起きました。気を取り直して後藤は「わたしは3本の中の1本にしか関わってないんですけども、ものすごく強烈に思い出に残っている作品。やっと完成して、おめでとうございますという気持ちです」と率直な気持ちを吐露しました。
ロバータが気になっていたのが、「林監督はお客様と観ることはよくあるのか」。聞かれた林監督は「いつも観ますよ」とサラリと回答した上で、「今日、ここの劇場音が小さかったですね」と、上映環境チェックも抜かりない様子でした。
アートとのコラボレーションが色濃い作品で、本作の美術を担当したのは、現代美術家・ヤノベケンジさん。香川県の高松市美術館で開催していた個展「ヤノベケンジ シネマタイズ」の会期中、映画の撮影セットをインスタレーションとして会場内に組み、そこで実際に撮影も行うという、極めて珍しいスタイルで完成させた作品です。つまり、美術館の来場者が映画撮影の見学もできたのです。「お客さん入りで撮りましたもんね?」と後藤が監督に振るとポスターを見ながら「こっち側がお客さんで、こっちはセットなんですよね」と、撮影当時を振り返ります。
当初は短編の制作としてスタートしたが、「永瀬正敏さんの助言で続けてひとつの物を撮ったらどうか?」(林海象監督)という話から、今回の構成に。ただ「『BOLT』は大規模(な設定)なんで撮れないと思っていたんですが、ヤノベさんの展覧会と、高松市美術館のご好意で撮れるようになりまして」と秘話を明かしました。さらに意欲を後押ししたのは、「原発ですよ」と林監督は力強くコメントし、「今でも汚染水が流れ出て、全く解決していないですしね。“3.11”が大きかったんじゃないですかね」と制作に臨んだ理由を語りました。
次に、シリアスな役柄で出演した後藤は、「俳優は引退した」タイミングで出演オファーを受けたと言います。「『あまり難しいことは言われてもできないよ』と海象さんに言ったら、『そんなことは一切言わないから、とにかく来てよ』というノリで出させていただいて」と出演の経緯を述べ、反省点にも話が広がります。「こういう人間ですから、楽しく楽しくいようとしてたんですけども」と撮影時を思い返し、「永瀬さんはこの役に挑むために、2日くらい眠ってないって言ってました。プライベートで会っても、見るからに様子がおかしいような状態で」と仰天の役者魂エピソードを披露。「ああ、俳優ってやっぱすごいんだなって思いましたね」と、永瀬さんの気合に刺激され、気を引き締め直したと話しました。
プライベートでも仲が良いおふたり。そのため、後藤が俳優業を引退しているのも「わかってて連絡しまして」と林監督。それでも山形出身の後藤に、福島が舞台の本作へ“東北代表”として出演してほしかったのだそう。改めて監督が出演のお礼を後藤に告げると、「僕の引退は、ダメな監督の映画に対しての引退です。良い監督の映画には出ますよ」と答えが返ってきたと暴露。これには後藤は「何をカッコつけたんだろ」と照れ笑いです。
劇中には後藤の実家近くにある工場の看板が使用されていることや、「閉所恐怖症の人は無理でしょうね」と後藤が語る黄色い防護服の重みから放射能の恐ろしさを体感したこと、撮影現場には林監督が教鞭を執る大学の教え子らが30人ほど参加しお寺で寝泊まりの“合宿状態”で「誰ひとり逃走しませんでしたから、楽しかったんじゃないでしょうか」(林監督)といった裏話も語られました。
MCロバータが来場者からの質問を受け付けるとアナウンスしたところ、「終盤のシーンは英語表記のみで、日本語字幕を付けない意図とは?」という質問が林監督に届きました。今回分は、上海国際映画祭用の海外フィルムだったそう。「来年3月から公開していくんですが、その時はエンドロールは全部日本語になります」とし、ただし原発に触れた箇所は「日本版には入らないかもしれない」と言います。また、「劇場公開時では1本化した状態なんですけれども、3本バラバラ(での上映)もありまして。実は、ひとりの人間の話なのか、3人それぞれ違う人生なのか。どっちも観られるようにしたいなと思っています」と、林監督は今後の展望を語っていました。
ひとまとまりか、3編で観るか。上映スタイル次第で作品から受ける印象が変わる稀有な作品と言えそうです。今回の映画祭での鑑賞チャンスを逃した方は、まずは3月の劇場公開時にご確認ください。
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