現役最高齢活動弁士・井上陽一氏が『雄呂血』を活弁上映! 中島貞夫監督によるトークも!
2019年10月20日(日) レポート
10月20日(日)、よしもと祇園花月では『サイレント映画「雄呂血」/「没後90年牧野省三の功績を偲ぶ」』を開催。『雄呂血』を現役最高齢の活動弁士・井上陽一氏、演奏・活動写真和洋合奏団で活弁上映したほか、中島貞夫監督の監修による殺陣、ちゃんばらの実演も行われました。
まずMCのロバータがステージに登場。これから“日本映画史上最高のチャンバラ映画”とも評される『雄呂血』を上映することを話し、活弁士・井上陽一氏と活動写真和洋合奏団が登壇。井上氏はまず観客にお礼。活動弁士をやって40年、81歳になったことを明かし、「一生懸命やらせていただきますので、よろしくお願いいたします」と挨拶すると、歓声が飛びます。大正14年に牧野省三氏が力を入れた大作であることを伝えたあと「81歳が娘の声をやらなくてはいけないことを心配しています、どこまでなりきれるか、無茶なことですけど見てください」と観客を笑わせました。
そしていよいよ映画がスタート。上映が始まる瞬間、井上氏の「よっしゃ!」の声が響くと、すぐに三味線、鳴物、トランペット、ピアノが響き始めます。本作の主人公は、ささいな誤解などから、周りに距離を置かれ、ついには師匠から破門されてしまう侍、久利富平三郎。無実の罪を晴らそうともがけばもがくほど、事態は悪い方向へ。あてのない孤独な旅に出たものの、世間の目は冷たく、どんどん転落して……というストーリーが展開されます。
井上氏の活弁は、映し出される映像にぴったりとマッチ。緩急自在の語り口調で物語を進めていきます。合奏団もリズミカルで勇ましいメロディを奏でたかと思うと、一転哀愁を帯びた旋律を響かせるなど、ストーリーを華やかに彩ります。ちゃんばらのシーンでは、阪東妻三郎ら役者たちがスクリーンで生き生きと躍動。ラストの大捕り物まで哀しく落ちていく男の物語を、井上氏、合奏団が迫力たっぷりの活弁&演奏で堪能させてくれました。上映が終わると会場からの拍手が鳴り止みません。「井上!」の声がかかると、井上氏は「ありがとう、満足しました」と感謝のコメント。会場を大きな拍手が包みました。
休憩のあと、まずは紋付袴の男性がステージ中央へ。すると両脇から槍を持った男たちが現れ、立ち回りが始まります。続いては、刀を使った立ち回り。複数の敵に囲まれた男性は二刀流で応戦。刀を手に、流れるような動きを見せてくれました。ここで中島監督が登壇し、牧野省三氏について語ります。牧野氏がちゃんばらを生み出した経緯、舞台と映画の違いなどについて話したあと、牧野氏が残した言葉には映画作りの本質を教えられることがあると中島監督。そのひとつとして“いち筋、に抜け、さん動作”という言葉を明かし、筋は今で言うシナリオ、抜けは撮影技術、動作は俳優さんを演出する監督の力、この3つが揃わないといい映画はできない、と力説します。それをいち早く見抜いていた牧野氏を讃え、さらに俳優を育てたという功績についても言及。育てたスターを抱え込まず、自由にさせたことなどを話しました。ほかにも忍術映画が作られた裏話やちゃんばらで使う刀ができるまでの試行錯誤など、貴重なエピソードが飛び出します。
続いては映画用のちゃんばらの訓練風景、どういう風に作り上げるのかを殺陣師の清家三彦氏が解説します。清家氏は「映画の殺陣のシーンで要求される、切る、切られるの表現、殺陣の技術力を身に着けていかなければ現場での信頼関係は成り立たない」と話すと、早速ステージ上で立ち回りがスタート。花道、舞台の二手に分かれると、勇ましい声を上げ、木刀を振ります。「切られたように見えましたかな?」と中島監督が問いかけると、会場からは笑いが。それからも迫力のある殺陣の連続で会場を圧倒したかと思えば、あえてスローモーションでも動きを見せ、コミカルさも加えた特別なちゃんばらで、会場を盛り上げました。
ラストは監督の「ヨーイ、スタート!」の声で合戦シーンを再現。限られたスペースのなかで最大のパフォーマンスをするのは非常に難しいと事前に説明があったとおり、それぞれが戦いながらも干渉しないという卓越した技を見せると、会場からは拍手が起こりました。中島監督は「これを繰り返して修練することで立ち回りの基礎が身につきます」と説明。改めて、牧野氏について触れ、「京都には映画作りの歴史が脈々と流れている、皆さんの力で盛り上げていただきたい」とアピール。最後に「それでは来年もまたここでお会いしたいと思います。ありがとうございました!」と挨拶すると、会場は大きな拍手に包まれました。
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